中秋の名月。 「今日はあのお侍さん来ないんだ?」 「…………」 黙りこんで縁側で、月を見上げる君。 俺の問い掛けにだって答える筈なく。 全く動かない後ろ姿に苦笑する。 「ユウ」 こっちを向いて。 「ユウ?」 「…………」 丸い月。 大きな月。 紅い月。 逸らさず見つめている君の瞳は、きっと同じ色に染まっている。 「綺麗な月だな」 「…………」 返事はない。 まるで人形。 物に話しかけてるかのよう。 「オイ、誰がお前に飯食わせてやってると思ってんの?」 「客」 「………あそう」 全くこの愛想なしは。 また捨てられたいのかって。 店一の売れっ子にそんな事言うにも実現は到底叶わない。 そうじゃなくてもそんな気は全くないけれど。 「ユウ寂しいの?」 「何故?」 「白髪のお侍さんが来ないから」 「…………そうだとしたら?」 らしくないね。 そんな台詞。 相変わらず俺に背を向けて、首は月に向けて。 「困るな」 「だろうな」 柱に凭れて煙管吹かして。 「ユウにはもっと稼いで貰わないと」 「そうだな」 煙を吐き出すと、紅い月が白く霞んだ。 でもそれはすぐに晴れて、また紅い月が輝き始める。 「でもあの人も熱心だよね。身請とか考えてんのかな、あのお侍さん」 だとしたら、またたっぷり頂かないとなと軽く笑って。 着物が擦れる音に軽く驚いて。 逆光の美人に目を細めた。 「どした?」 「見飽きただけだ」 目を伏せ軽く息を吐く姿も絵になる。 俺が客なら直ぐにでも大枚叩いてでも手に入れようとしただろう。 「あの人となら何時まででも馬鹿みたいに眺めてるくせに」 「………あの人とならな」 「……そう」 俺じゃ駄目だよな。 俺は店の旦那。 客じゃない。 何より、あの白髪のお侍じゃない。 でも。 「でも折角の中秋の名月よ?飽きたって拝んでおかないと」 「…………」 「俺で悪いけど付き合って頂戴」 「…良いのかよ旦那」 流れる艶やかな黒髪に、同じ色でも俺のとはえらい違いだと笑う。 何を思ったのか、細く伸びた指が俺の眼鏡をするりと外した。 「………何よ?」 「これ外した方がまだ見える顔になるぜ」 「ばーか、店の娘が惚れたら大変でしょ」 「そうかよ」 月光に照らされて透き通るような頬に、そっと触れて。 これが俺の物ならなぁと幾度思ったか解らない事を飽きもせず。 「綺麗だなぁ」 「………ああ」 呟いたのは月じゃない、他でもない君の事。 月の光は、まるで君だけを照らすように。 紅い月は、まるで君の口唇のように。 輝く月は君の為にあるようだ。 口にしたら必ず一蹴されるであろう事をぼんやり思って。 「明日はお侍さん来るかな」 「………そんなに来て欲しいのか?」 「そりゃあの人羽振り良いから」 男としては是非とも訪問をお断りしたいけれど。 月を真っ直ぐに見つめる横顔は、あまりにも儚げだから。 「敵わないなぁ」 「あ?」 「何でもねぇ」 訝しげに首を傾げるのを適当にあしらって。 店先からの声に立ち上がる。 「ユウ、一本入ったってよ」 君が去った後でも。 紅い月はまだ輝いている。 それはもう、共に眺めたそれとは違う。 違うけれど。 まだもう少し。 もう少しだけ、俺だけの月でいて。 終 戯言:昨日は中秋の名月でしたァァァ! 急遽大急ぎで書きましたよお月見ネタ!死 結局一日遅れアプですけど…。 花魁ネタですみませ…吐血 わかりにくいけどアレ神←ティキで。 ティキは店長的存在キボンヌ。 妄想炸裂駄文ですみません;; 病気です。この人病気です。 A.C.Eやりてー。(何を今更) BACK