眠れぬ夜は君の所為



暑そうな黒い長いコート。
春も半ばを過ぎた頃に。
こんなもん着てる奴なんて。

「……エクソシストねェ…」

大の男三人ひん剥きやがったあの坊主も。
今目の前を通り過ぎていく黒髪の長いお嬢さんも。

「あっつそ……」
「あ?どうした?ティキ」
「いんや、何でもねェ」

暑く、熱く、重いものなんて、捨ててしまえば良いのに。

「何もねェ訳ねェだろ。何だ?イイ女でもいたか?」
「………あー、いんな」

ホラそこ。
指差した後ろ姿に連れは下品な歓声をあげて。
綺麗な髪の背中に走って行った。

「…………」

エクソシストの女なんて高嶺の花どころじゃないだろうよ。
いきなり迫ってぶっ飛ばされてる連れを見る。


「よ、玉・砕」
「うるせー」

最近の女は何でああも手が早いかな。
もう少しで天国行くとこだったぜ。

「何言ってんの、オメーはどう足掻いても地獄行きだよ」
「んだと?やんのかコラ……って言いてェとこだが生憎そんな気も体力も残ってねェ。命拾いしたな」
「どっちがだよ」

互いの冗談に軽く笑い合って。
その頃にはもう黒い背中は雑踏の中に消えていた。



闇。
昼間はあんなに暑かったのに。
今じゃ薄着に鳥肌が立つ。

「…あー…寝れねェ……」

街の光が届かない闇に立上がり、前髪を掻き上げる。
光も何もない中、連れ達の鼾だけが辺りの空間に渡っていた。


「………」

括れた煙草に火を点し、それだけを手に歩き出す。
宛もなく、ただぶらぶらと。

「………何だ…?」

気がした。
静かな気、が。
けれど確かな気、が。

ふ、と昼間の背中が頭を過ぎる。
まさかとは思いながらも、あの綺麗な姿が離れないのも事実で。

気付けばそれを探していた。

「………………あ」

静かに研ぎ澄された刃の気配が。
否、気配だけではなく。
その澄んだ音が。
俺の五感を擽る。

「…みーつけた」
「っ!?」

振り返った顔は闇に隠れてはっきりとは見えないけれど。
驚愕を湛えているのは明らかだった。

「…………誰だ、テメェ……」

低い、だけど澄んだ声。
ぞくりと皮膚が粟立つ。

「たーだの流れ者だよん。ここいらで野宿してんのさ」
「…………そうかよ」
「嬢ちゃんこそ何してんのさ。ココの裏通りは危ないよー」

ケラケラと笑うと、見えない綺麗な顔はむっとした。

「テメーもな。ま、そんなナリじゃカモられもしねーだろうが」
「ちょ、そりゃ酷いんじゃないの」

あっちはとっくに目が馴れちまっているらしい。
漸く俺も相手のご尊顔が拝見出来るようになってきて。
昼間の綺麗な顔。

「さっさと仲間の所へ戻れ。ココはあぶねーんだ」
「女に心配される程俺は頼りないですかね」
「ああ。俺より遥かにな」
「……あそ…」

厳しい言葉だこと。
溜息を吐いて。

「アレ?何で俺に連れがいるって知ってんの?」
「昼間見た」
「ありゃ」

思わず照れちまった情けない俺。
だって嬉しくて。

「こんな美人に覚えてもらえるなんて光栄なこって」
「嫌でも覚えるけどな」

あ、そう。
そりゃそうだわな。
昼間の連れの酷い顔が甦る。
溜息を吐く現金な俺。

「…じゃあな」
「あ、ちょ、もちっとお話しない?」
「急いでるんだよ」

うざったそうな声。
道の砂利を踏む音。
揺れる黒髪。

「ティキだ」
「………あ?」

振り返る綺麗なエクソシスト。
自然と笑みが漏れた。

「名前だよ。俺の」
「あっそ」

呆れたように息を吐く顔を一時も瞳から逃さぬよう。
しっかりと見つめる。

「嬢ちゃんは教えてくれないのん?」
「教える義理がねェ」
「……………ハイ」

最後まで冷たいつれない。
でも何故かそれが心地良い。

「…………俺ってMかも……」
「は?」
「いーや何でもないよん」

笑って手を振る。
また戦地で会わない事を期待して。
こんな美人、滅多にお目にかかれないから。

「じゃーね嬢ちゃん」
「…………テメーさっきから勘違いしてるぜ」

俺は男だ。

「……………へ?」
「じゃあな」

背中を向ける体。
遠ざかる背中。
小さくなる足音。

「…………オトコ……?」

小さくない衝撃に立ち尽くす。
あんなに美人なのに。

「……関係ねーさ」

ホレたハレたに性別なんて。
また下がってきた前髪を掻き上げて、先刻来た道を戻る。
きっと先刻以上に眠れなくなっているだろうと苦笑して。


もし、また会う事があったなら。
今度はあの髪に、肌に、触れてみたい。

もし、戦地で会う事があったなら。
俺の手であの存在を消してやりたい。

他の誰にも壊されぬよう。


終


戯言:…………ティキユウ……(吐血)
話繋がってなくてすみません;;っていつもの事ですが。(自爆)
コレティキ初登場付近に発狂しながら書いたやつですが。
話食い違ってたりしてないかな…。後で読み返すか。死


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